モノローグ

あなたがいないと……胸は騒ぐ……

彼に初めて会ったのは19の時。私がここへ次期花嫁として来たときたっだ。
誰もが次期花嫁として私を丁重に扱ってくれた。でも誰もがその丁重さのどこかに腫れものを触るようなよそよそしさが隠されていた……。それは私の次期夫となる人もそうだった。
ただひとり、彼だけはなにかが違っていた……。

育った家を政略の為とはいえ、ひとり離れて、どんなに優しく遇されてもその孤独感は満たされることはなかった。
彼は私を他の娘達と同じように、遊びにも誘ってくれたし、おしゃべりもしてくれた。私には彼のそんな暖かい優しさがなによりも嬉しかった。
家にあってもどこか特別だったのは、政略の駒として使うためだった、と気付いたのはここへきてからだった。
だから家でも大人達の間で丁寧に育てられ、他愛のないおしゃべりを楽しむなんてしたことはなかった。
だから彼が好きだった……。

結婚は2度した。
二人ともすばらしい夫だった。
結婚前はどこかよそよそしかった夫も、結婚後は心から私を愛してくれた。対等に愛されることがこれほど嬉しいことだとは思わなかった。だから精一杯愛を返した。……それなのに……。
その二つの結婚はどちらも長くはなかった……。
最初の夫が急逝したあと、次男である次の夫との結婚は当然くるべくして、来た話だったから、辛かったけれど、納得して再婚した。
沈んだ気持ちの私を夫は包み込むように優しく、深く愛してくれた。私はそんな夫をいつしか誰よりも愛していた(少なくともその時はそう思っていた)。

それなのに……!その夫は組織に殺された!!
後を追って死ぬ気でいた私を、組織はまた道具として使おうとする……。
……私は自分の命さえ自分ではどうにもできないのだ……。

彼はいつも側で見守っていてくれた。
彼の視線が何を意味するのか……知らない訳ではなかった。
けれど、私はもう、誰かを愛することが恐かった。どうせ自分でどうにもならない人生ならこのまま流されるまま、漂っていた方が楽だから……。
そう……気付いてはいけなかったのだ……。「彼を好きだ」という気持ちの正体がなんであるか……。

3度目の婚約は私を愛してくれそうにもない男との話だった。けれど、その話は1ヶ月もしないうちに立ち消えになり、次は新しい組織のトップとなる男との政略が整ったという……。
12月に略式の御披露目をこちらで行い、式は新婚旅行を兼ねて、香港だという。
……その話を彼の傍らで聞いた時、初めて涙がでた……。
今まで家を出るときも、次々と私の気持ちにお構いなしにやってくる結婚の話もどこか「仕方ない、これが運命だ……」……と醒めた気持ちで聞いていたのに……。

気付いてはいけなかったのだ、彼を本当は愛していることに……。
悟られてはいけない、誰にも……彼にも……。
でも今だけ、この幸福に浸っていたかった。この想いが許されるものでもなく、叶うものでもないのなら、彼の側に寄り添っていられるこの束の間の幸福に……。
夢は、あっという間に終ってしまった……。
私はもう、彼の恋人であってはいけないのだ……。
12月の略式御披露目の打ち合わせが間もなく始まる……。
私はもう、あの方の花嫁なのだ……。

愛しているわ……あなた……!!

writed by ぽりーん/1997.11

勿論このストーリーもフィクションです。
悪しからずご了承ください。

そしてきっと、本人はこ〜ゆ〜人ではないと断言できます(^_^;)。