モノローグ

由布姫・はまゆう記

あの時、私にははっきり解ってしまった……

あの時の涙は海人さまのご無事のご帰還が、再会できた喜びが嬉しかったのではない。
確かに私はほっとしていた。
……蔵人が海人さまの傍らにいないことに……
蔵人がいなければ海人さまを独り占めできると……ほんの一瞬だけれどもそう思った。
そして、「お前とは泣いて別れを言いたかった」という海人さまの言葉に自分の中に嫉妬があるのをはっきりと知った。

……蔵人、あなたは帰れなかったのね……。
そう、キリシタンになって、だから帰れなかったのではない。
希望を見つけてロシアで生きることにしたのでもない。
ロシアに残ることを自ら選んだのではなく、選ばざるを得なかった……きっと。

海人さまの傍らに必ず控えている乳兄弟。
海人さま同様に暖かな笑顔で私に笑いかけてくれるのに、ふとした拍子に何か冷たいものを感じることもあった。
ただ、その瞳の意味がそれまで私には解らなかった。

そう、蔵人は帰れなかった。
私がいるここにだけは帰って来たくなかった。
もしかしたら、海人さまとどこか遠くで違う人生を送ってみたかったの……?
そんなことを言ったら誇り高いあなたは激しく否定するのだろうけど。
敢えて知らぬふりをなさる海人さまではないわ……海人さまはそんなあなたの気持ちを知らないのね…………。

でも、今の私には解るの。
ねえ、蔵人……あなたはあの頃、自分でも知らないところで私に嫉妬していたのでしょう?
そして、それを私も同じ気持ちで感じ取っていたのね。
子供だったから、そんな心の動きなんて知りもしなかったけれど……

蔵人、今あなたは海人さまのいないそこで何を希望に暮らしているの?
私はほっとしているのよ……。
でも、同じ気持ちで海人さまを見ていたあなたのことが、私は好きよ……。

writed by ぽりーん/2001.2

由布姫日記を書くつもりが彩輝蔵人への由布姫のお手紙になってしまったわ(^^;)。