musetteの公演レポート

白昼の稲妻/大劇場公演が終わって

2003/11.25

大劇場公演が終了しました。
初日からはずいぶん深く細かくなったように思われます。
あちこちのお茶会などで生徒さんのお話によれば、なかなか場面などが決まらなかったので、始まるまではとてもバタバタしていたとのことです。始まってからのほうが落ち着いて演じることができたとか…。その分、公演を重ねたらいろいろ変わっていったのでしょうね。

今回の公演を見るにあたり、チケットも事前に多めに手配し、始まってからも気に入ったので観劇予定を増やし、かなり回数を見てしまったということもあって、妙に細かいところまで見てしまいました。音楽がない場面だからといって侮れないところがたくさんあったわ…。
そして、前後左右に立ち位置が計算されているようで、いろんな席で見たらいろんな発見がありました。回数を見れる方は、1階、2階、前方席後方席、下手端、中央、上手とまんべんなく見ると面白いし美しいです。特に劇中劇のように、オペラグラスで食い入るようにお気に入りばかり見るならば、視野がとっても狭いですからね、同時に目に飛び込んでくる景色が新鮮なんです。

【アルベールはどんな詩を?】
とても正しい精神の持ち主、アルベール。今を時めく詩人というけれど、いったいどんな詩を書いていたんでしょうか?「罪を犯すだけの情熱がある」と言い切っているオーギュストの方が過激な詩人のように思えます。
ヴィヴィアンヌの恨みを晴らす意気込みに「友人のカタキ」とかいって無理やり割り込む強引さを見せながら、やたら優しく思いやりにあふれた態度に物足りなさを感じるのは私だけ…?善良な人間が、女の恨みに引きずり込まれて裏の世界に通じていってしまうほうが好みでございます。そして、たかこさんもその方が絶対素敵だと思うんだけどなあ…。
裏の世界で恨みも晴らすけどヴィヴィアンヌも巻き込まれて死んでしまう、そんな出口のない暗さを荻田ワールドで見たかったけど…「家族で楽しむ宝塚歌劇」ではあれが限界なの…??

【ヴィヴィアンヌって何歳なんだろう??】
不思議ですねぇ。
8年前の少女時代はどう見ても社交界デビュー前。でもアルベールは兄と同期。8年前から「あなたちっとも変わっていない」って…?
あまりに幼かったら、「この手で恨みを晴らす」なんて感情は持続できないのでは…?3年間、きっと狂っているか狂いかけているかのお母様に聞かされていたにしても、「ラ」くらいしか聞いてなかったみたいだし。
亡命したというからには親戚を頼って英国に渡ったんだろうけど、「劇場の衣装係」ってなんだー??
後ろ盾のない貴族の娘なんて、結婚するしか生きていくすべなんてないのでは?あれだけ美しいのだから、親戚がいるならよけいに、劇場なんぞで働かせたりしないでしょうよ。どこかの金持ちの貴族に高く売りつけないと。
年寄りのやもめ侯爵にのぞまれて後添えに入ったけど、すぐ亡くなってしまって、ヴィヴィアンヌは自由になったから復讐のためにパリに戻ってきた…みたいな設定だとうれしかったなあ…。あんな若いころに侯爵未亡人を演じておきながら、なぜ今になって伯爵令嬢…(涙)。
しかも本名で帰ってきて1人で探し回るなんてあまりに無防備だ…。ところで、サバティエとはどうやって知りあったんでしょうね??

【下級生娘役トリオ】
和音、咲花、花影。この有望娘役が個性に合わせて使われていて、たいへん面白いです。
たっちんは、あの少女ヴィヴィアンヌが8年後にああなるとは思いもつかないほど似ていませんが、素晴らしい声質と声量をあやつって的確に「芝居の歌」として表現できるところがすごい。音楽学校文化祭、水さんのディナーショーなど「どーしてその若さでそんな歌が歌えるの…?」と何度も驚かされておりまして、歌手として、近年まれにみる逸材だと思います。できればヒロインよりも個性派として長くいてほしいなあ。めざせジュンベさん!…それには体形がちょっと子供っぽい…?そうそう、お化粧は完ぺきだけど、髪形のセンスを磨こうね。
さきちゃんは、ヒロインの素質十分。「娘役の美学」に興味があるようですから、さらに有望。小柄だけどダンスにキレがあるし、表情もくるくる変わってとてもイキイキ踊ってます。令嬢の小芝居でも、毎回気持ちの入ったシュザンヌちゃんを演じているところがまたとにかく可愛い。そりゃあランブルーズ侯爵も選ぶってもんです。もうそろそろバウか新公で主役が見たいですね。
アリスちゃん。娘役を少年で使うと、どうにも体形が女の子っぽかったり、大きすぎたりしてどうもなーということがよくあるのですが、ここまでキャラと物語とにぴったりはまってるのは素晴らしい。やせ過ぎているのがこれほどよかったとは…。友人に聞いた話では、お稽古中からアリスちゃんは髪を短くしていたそうです。声もしぐさも男の子らしくなるよう研究してるのがよくわかりました。お芝居がとても好きなんですね(^^)。できたら地色もピンクはやめて男の子たちと合わせてみたらいいかも…。銀橋で並んだら男の子たちとは顔色違うんですよね。わざと青白くしてるのならいいんですが。それとも、ショーとは化粧替えしてないから地色は娘役仕様?
3人とも、お芝居が段取りにならず、どんどん進歩していくところが素晴らしい。先が楽しみです。

【路地裏の人々】
第5場。
みんな元気ですねー。そして宙組の娘役は強い…。ダニー(速水)とシモーヌ(美風)の関係が日々変化していくのを毎回楽しく見守ってました。「隣の踊り子のねーちゃん」とはもう会わないとかなんでもないとか、そんな出まかせをダニーは言ってるんでしょうかね、シモーヌは「また嘘つかれたー」と騒いだり泣いたりしたあげく、フットワークをきかせたボクシングスタイルでダニーにパンチをくれたり、楽のあたりは真顔で怒ったり、そりゃもう面白かったです。そのくせ「ずるいよジルダ!」とか言ってみたり、なんなんでしょうか。
ジルダ(美羽)も、来るものは拒まずのサバティエに適当に遊ばれてましたからねぇ、最後に「こんなところが俺の似合いか」なんて言われても、とりあえずよかったね!と言ってあげましょう。サバティエへの気持ちを表す演技がちょっと段取りっぽいのがもったいないところ。それよりも、シモーヌと角突き合わすところのほうが段取りにならずにイキイキしてるのは、やはり君も宙組の娘役ってことか…?
…しかし前方席で見たとき、下手に並ぶ小僧たち。若いってすごいな〜〜〜〜〜。特に研一の凪七ちゃん!!お肌がピチピチよー!!

【ドレスでお出かけ】
第5場つづき。
忍び姿のヴィヴィアンヌ。かわいらしいピンクのドレスの上に紫のマント(身分を隠すときって、どうして紫なんでしょうね^^;)を着込み、ブールヴァールへ1人で出かけます。アルベールに見つかって、とっさに後ろを向いたときにマントがはだけてドレスが見えてしまったのに気づき、あわてて隠している、お粗末な復讐者。パニエを盛大にシャカシャカ言わし、ダッシュで逃げ去ります。
その後、髪にお花をさし、お帽子もかぶってギャランティーヌのサロンに現れるヴィヴィアンヌ。
サバティエと会っていたのは夜かと思っていたら、ここは昼間。??…別の日??
そして疑問がひとつ。ヴィヴィアンヌはギャランティーヌと別居してるんでしょうか?パリにたくさんある屋敷の一つに住まわせているの?でも、いくらなんでも伯爵家の令嬢がお供もなしにプラプラ歩いてるなんて…ヴィヴィアンヌが『わたし、ロンドンでは1人で何でもしてましたから』なんて言っても、あんなドレスを1人では着れるはずもないし、1人で暮らしてるはずもない。ギャランティーヌも、不案内なパリに1人で置いておくとも思えないんですよねぇ。

【四人の複雑な心理描写】
第6場。
音も動きもないので、退屈になってしまいがちなアルベール、ヴィヴィアンヌ、ランブルーズ、ギャランティーヌのやり取り。みなさんとても控えめながら複雑な細かい芝居をしています。
ヴィヴィアンヌ「ランブルーズ侯爵、またご出世ですって?」何か不自然なアクセント。それは何か探っているの…?ランブルーズの「ラ」くらいはお母様から聞いていたのかな??
噂は知らないらしいギャランティーヌにさらっとかわされてるところへランブルーズ侯爵がやってきて「誰かのうわさ話かな…?」なんてホントのことを言うので、ウブなヴィヴィアンヌはドキドキものですが、侯爵への疑い?を見せるには至りません。
そんなややこしいところへ飛び込んでくるアルベール。ヴィヴィアンヌもたいへんねー。探りながらも余裕の侯爵と、早くヴィヴィアンヌとしゃべらせろー!と慌ただしいアルベールの問答「演じなければ誰ともつきあえない」を聞いてるようでいながら、ヴィヴィアンヌは、ふと『ときおり見せる暗い顔』をしていて、それを偶然見たギャランティーヌは「あら…」なんて思っています。
侯爵は、『8年前のことは、公爵夫人にもヴィヴィアンヌにも知られていない』という自信があるのでしょうか?また、母親に執着したなら娘にも興味があるのでは…?それとも、あの一家の女性は「似ていない」んでしょうかね。少女時代、ヴィヴィアンヌ、夫人…みんな誰とも似てません。
公爵夫人は、知らないから呼び寄せたのでしょうけれど、これは侯爵にとっては危険なことだというのに。ポヴェール伯爵夫人はランブルーズ侯爵に言い寄られたことと家族の災難を結びつけて考えていなかったということ…?
「君の芝居、見るのを楽しみにしているよ」が、後々ほんとうになり、侯爵の破滅をまねくということはこのとき誰もわかっておりません。

【その情報、いくらで…?】
第8場。
次にサバティエに会いにカフェに行くときは、ドレスでなく外出着で訪れます。ちょっとは学習したねー>ヴィヴィアンヌ
ここでも帽子が紫頭巾…。
にこやかに迎えるサバティエを見て、ジルダは気になります。きれいな人がわけありで尋ねてきたんだから、もっと気にしてもいいんじゃない?
「その情報、いくらで…?」と尋ねるヴィヴィアンヌ。初日あたりにくらべて、ずいぶんなんというか…企んだ表情になってます。自分のお金もないだろうに、どうやって払うつもり??
「何もいらない。お察しのとおり、最初からあなたにまいっている」といわれ、ぷいっと横を向くヴィヴィアンヌ。あら?自分と引き換えにする覚悟があったの?
でも、何も払わなければ情報をもらえないかもしれない…なんて思っていたらサバティエは話しはじめてくれるんです。銀行家のヴェルネと繋がっているのがランブルーズ侯爵だというのはけっこうわかっていたんですね。お母様も、いまわの際に「ラ…」くらいおっしゃったのかも(涙)。
お兄さまのことは初めて聞いてショックを受けるヴィヴィアンヌ。ふらふらとサバティエのグラスを受け取ろうとして引き寄せられてしまい、これまた大げさに拒んでしまいます。根性なしですねー。そして、紫頭巾も置いたまま、激しく階段を登ります。それは暗殺の全貌を聞いてショックだったこともあったけど、自分の覚悟が甘かったことがくやしいの?
「ええい、金がないなら、とっとと体で払ってしまえ!体があるやろ女には!」…こう言い切った宙組ファン(もちろん女性)を私は知っています。このフレーズはしばらく忘れられそうにないわー。でも、自分の美貌を切り売りしてでも復讐のために命をつないできた、という設定のほうが私も好きだなぁ。

街をさまよい歩くヴィヴィアンヌ。もうズタボロ。そんな闇雲に…。カマラはいちおう「ラッチマンという人を知りませんか?」って聞いて歩いていたよー。
舞台奥から正面に向かってくるときの顔がなかなか好きです。
そして、その舞台奥には、悪の権化のようなランブルーズ侯爵のイメージ。
街の男の顔を全員見ても、求めるカタキには会えず(いるところは知ってるくせに^^;)ぼろぼろに憔悴しきってカフェをあとにします。

【だんな、今日は、どこへ…?】
ブールヴァール近辺には「お嬢さんで、きれいな人」は1人しかいないのか、ルネに案内されてヴィヴィアンヌを見つけるアルベール。
ここで上手にはけるのがちょっと解せないわ〜。だって、この作品の演出上、上手はセーヌ左岸、下手は右岸と思っていたのになー。
といっても、下手の狭い小屋の中で鼻をすすりながら待機してるヴィヴィアンヌと同じ方向から出てくるのも絵的に美しくないといわれればしょうがないんですけどね。
建物からまろび出るヴィヴィアンヌ。涙ぼろぼろです。
「あの連中がのうのうと…!」といいながらぐるっと頭を回すと、涙が後ろにびゅっと飛んでいくくらいです。隠していた(つもりの^^;)憎しみが滝のようにあふれ出してるんですね。立っていられるのが不思議なくらいですが、椅子もないし、ライラみたいに座り込むこともできないし。
ここまでストーカーみたいにヴィヴィアンヌを追いかけてきた、正しく優しいアルベールも辛い。ヴィヴィアンヌが泣けば泣くほど辛く愛しさも増すばかり。耳元で「くすん」とか鼻をすすられて…。

【劇中劇・白昼の稲妻】
このシーンのために通っていると言っても過言ではありません。
「さあ、始まりますわ」のあと、間髪入れずに異世界に引きずり込まれる、あの感覚。
やっぱりたかこさんは前髪振り回して苦しむほうが素敵っ!
「あの美しい体を見ればおれの心も鈍る」…体ですか?姿ではなく…??
デズデモーナ(このネグリジェが作品を代表するものらしい^^;)が舞台奥から二人の侍女を伴って現れ、踊ります。美しいですねえ、そりゃ心も鈍るというものです。ここの振付には何か意味があるんでしょうか?デズデモーナは寝台の上掛けを引っぱり上げるようなしぐさ、それを見下ろしながら一周。他にも素潜りするみたいな動作をみんなしてます。不思議だ…。
「ええ、あなた」
この、愛と信頼をぜんぶ凝縮したような、美しい美しいデズデモーナ。
浮気の証拠を得たと思い込んでいるオセローにしてみれば、「おれを裏切っておいてこの女は…!!」そりゃ殺したくなりますねぇ。こんな妻を持てば、よほど鈍感な夫でないかぎり疑いの搾め木にかかってしまうに違いない。見たら決心が鈍るので、絞め殺す瞬間までオセローはデズデモーナを見ません。
首に手をかけるときのオセローの表情が狂っていて素敵です。でも上手側からしか見えないの…(涙)。
観客のイメージとして現れるランブルーズ侯爵も下手にはほとんど来てくれません(涙)。
人の命を弄び、悦楽をむさぼっていたランブルーズ侯爵も、ポヴェール伯夫人のことは愛していたのでしょう。嫉妬の炎に苦しむ様がこれも素敵。ねっとりした重い黒髪が、前髪ハラリが(はーと)。ここでも不思議な振り付け、ドリブルとランニング。
けれどやはり因果応報、イアーゴーともども人々の非難に押しつぶされてしまうのでした。先頭に立って追いつめるデズデモーナ。
ここの音声、ランブルーズに混じってイアーゴーもちゃんとありますよー。ここの場面の音は、大劇場だと1階後方、もしくは2階のほうが聞き取りやすかったです。東京の音響はどうだったかな…?綿密な調整をしてほしいですね。

【あっさり生まれ変わって】
脳みそが沸騰しそうなランブルーズ侯爵。袖に入る前の「ニヤっ」という笑いは、余裕のポーズかそれとも…?
あだ討ちを無事終えたヴィヴィアンヌ。ふつうなら石を積み上げたり、卒塔婆に手を合わせにいったり、星空に浮かび上がる両親と兄の笑顔に報告したり、せめて独り言で「やったわ」くらいつぶやくくらいはしなきゃいけないところです。そうしないと自分の8年間に区切りがつかないし、次のことなんて始められませんよね。
ヴィヴィアンヌは去っていくランブルーズとヴェルネの顔を見たあとは、なんだかもう恨みなんて最初からなかったかのようになってます。8年間の家族の恨み、あれだけの人間を巻き込んで…あっさりした人だ。
アルベールはすかさずプロポーズ。うーむさすが比類なき黄金のヒロイン、都合よく話がすすむなあとびっくりしていたら、シャーマン系の友人がさらっと「そんなもんよ人生は」と言いました…。
慣れない幸せにちょっと臆病になり「やり直せるのかしら」。
「やり直せる(キッパリ)」
ここで、ヴィヴィアンヌのスイッチがパチッと切り替わる音が聞こえました…。
毎年生まれ変わり初心に帰ることができる方ならではの、すごい技だーーー!

幸せならいいんですけどね、往来に出るならなにか羽織らせてあげて>アルベール

もしポヴェール伯爵の名前や領地を封印していたとしたら、アルベールとヴィヴィアンヌに名前だけでも継がせてあげられるよう陛下のお耳に入れることくらいは、ギャランティーヌにできないかな…。でも今度のことで、知らなかったとはいえ公爵夫人もサロンは閉じるかもしれませんねえ…。

まだまだ人物に関しても書き足りないけどおわり。「とってもヒマそうなベラ」とか書きたいなー。ちょこちょこ追記してるかもしれません。